漫画感想「サルチネス」古谷実
著者:古谷実
!!大好きな作品を紹介がてら語っている記事であり、レビューにはなり得ていない超主観的な感想文です!!
古谷先生はグリーンヒルが一番好きでしたが・・・
サルチネスも同じぐらい好きな作品になりました。
とってもとっても良かったです。
【あらすじ】
主人公は妹が大好き。彼の生きる糧は妹の愛ちゃん。愛ちゃんが幸せになることが主人公の幸せだ。兄妹二人は実母に捨てられた為、生死の境をさまよった時期がある。その当時から主人公は「妹を守らなければ」という強い使命感を持っているのだ。その後引き取ってくれた祖父の優しさの甲斐もあって愛ちゃんは小学校教師として立派に働いており、主人公はそんな生活に深い満足を覚えていた。ただし、いつ死んでもいいという(あるいはいつ死のうかと常に考えているような)消極的な満足感である。だが、祖父の一言で「愛ちゃんの人生において自分は邪魔だ、お荷物だ・・・」と感じてしまう主人公。愛ちゃんと祖父の前から姿を消し、新天地で無計画にも自活の道を模索することにした。
これまでニートだった主人公は生活能力が皆無であるものの、地頭の良さと独特の哲学でなんだかんだ新しい仲間たちと生活の基盤を築いていく・・・。
【ネタバレ感想】
1巻だけ読むと「いつもの古谷実」臭がぷんぷんしていて非常に辛かったのですが、読後感は驚く程さわやかで温かったです。ラストまで一気読みしたところ、熱い涙が止まりませんでした。
ラストに触れる前に、途中経過で特筆すべき点を。
なんといっても、愛ちゃんにとっての幸せが「兄である主人公が優しい女性と結婚して幸せになること」なのだと発覚したシーンが大変印象的です。つまり、主人公と同じ。お互いを思い遣りあってる素晴らしい兄妹愛にジーン。。。
このあたりで「いつもの古谷と違う」という予感が兆します。糞親が主軸にある別作品「ヒミズ」では自己の幸せを追求することもなく憎しみに流されひたすら堕ちていったイメージ、そして「僕と一緒」なんかでは親に捨てられた悲しみ、切なさ、今後の希望があまり言語化されておらず無理に笑いで流し、寂寥感たっぷりに収束していきました。が、サルチネスは全然異なる。こうしてきちんとぶつかり合って、どうすれば幸せになれるか模索していくんですよね。
主人公は常にどこかで「誰にも気が付かれないように死を迎えるにはどうしたら」といった考えにとりつかれてしまっていましたが、愛ちゃんを幸せにするには自分が幸せにならなければいけないのだ・・と理解してしまった今、もはやその道は許されない訳です。こういう身内の一言が不幸を防ぐんだなあ。。としみじみ思いました。
主人公は馬鹿みたいに不器用で世間ずれしていてあらゆることが空回りしてしまいますが、地頭の良さは伝わってくるし、根は悪い奴じゃないし・・・何より愛ちゃんへの愛情は本物で、憎めないキャラクター。だから周りも彼のダメなところを指摘しつつも、見捨てたりはしない。一進一退しながらも周囲の手助けもあって、主人公は何とか愛ちゃんの望む人生を歩めないか悩みながらもがいていきます。
「人間どれだけ努力したって、中々変われない」というジレンマや傷を負ってしまった人生の不条理さも描かれていますが、全体にあたたかさがあり、比較的穏やかな気持ちで読み進めていけました。
そして最終回手前~ラストシーンまでの流れは鳥肌が立つ程良かったです。
愛ちゃんと主人公は実母のネグレクトによってトラウマを抱えています。特に愛ちゃんを守るため気丈に振る舞い万引きに手を染めざるを得なかった主人公(当時5歳)は・・・どれ程辛かったでしょうか。想像するだけで胸がつまる。
最終回手前でその諸悪の根源・実母が現れるんです。しかも全然罪悪感を覚えておらず、金の無心にやってきただけ。
てっきり愛ちゃん&主人公とこの糞母がご対面してしまうのかと思いきや・・・ここでまさかの豚大活躍。他責の天才、人間の屑として描かれてきた主人公の仲間の一人、豚が最高の判断をして追い返してくれます。二度と来ないで欲しい、と伝えつつ。
もう・・・ここで既に涙が溢れてくる。シクシク、ってより「うおおおー」って感じの男泣きです。うおおおおおーー豚ぁーーーー!!!!!!!って
そこからの最終話。愛ちゃんにスーパーハッピーな出来事が起きます。主人公は全身で幸せを感じ、しかもそれを知人の女性(主人公とちょっといい仲になりそうな度量のある女性)に報告。女性は癖のあるキャラですが愛情深い人で「良かったね!!」と自分事のように喜んでくれる。ここでまたウルっときます。主人公にはこの人が居るから大丈夫なんだな・・・と、安心感を覚えるんです。
そして最後、、、
「生まれてきて 良かったよ・・・・」
なんと彼からこんな一言まで飛び出します。
もう涙で前が見えません。
ほんと、良かったね。そう思えて良かったね。愛ちゃんの為に死ねない・・・といった受動的な生への価値観が僅かながら変わった。。そんなシーンでしょうか。勿論愛ちゃん絡みの動機ではあるんですけどね。自分が感じているこの喜びを誰かに解って貰いたい、という激しい衝動はこれまでの主人公には無いものだと思います。
女性は主人公の号泣を穏やかな表情で見つめ「まだまだ先は長いですよ!」と激励してくれる。そうだね。先は長いね。いつ死のう、なんて考えを思い出す暇なんてもうなくなる人生が始まるんだね。。
愛ちゃんの幸せ(主人公が主人公の良さを解ってくれる女性と結婚すること)も叶いそうな余韻を残し、完結!
最高オブ最高!!!
最近スタートした新作の第一話も凄く良かった。期待大です。